研究者らが選ぶ、
ポストパンデミックに
いま向き合いたい
マンガやアニメ①

Blu-ray・DVD/バンダイナムコアーツ
(c)1995 マッシュルーム/メモリーズ製作委員会

『MEMORIES 大砲の街』
 大友克洋

選:髙瀨堅吉(自治医科大学教授/心理学者 / HITE-Media)

『MEMORIES 大砲の街』は街の1日を描いた作品です。その街は「大砲を撃つ」ためだけに造られた街で、生活のすべてが「大砲を撃つ」ために存在します。物語は、朝から父と息子が、弁当をもって家をでるところから始まり、その日の大砲が撃たれるまでが描かれています。物語の終盤、息子が言います。

「ねえ、お父さん。
 あのさ、いったいお父さんたちって、どこと戦争してるの」

手段は目的を達成するためのもの。それが逆転する現象は私たちの世界にも見られます。生き抜くこと、それは手段と目的と間違えないこと。この作品からそれを学びました。

Kenkichi Takase
学生相談を通じて青年期の心のケアを行いつつ、研究ではマウスやラットを対象にヒトの心の生物学的な理解を目指す。研究テーマは「ヒトの心の発達やその障害が、どのようなメカニズムで生じるのか」。著書に『〈自閉症学〉のすすめ オーティズム・スタディーズの時代』(ミネルヴァ書房 、2019年)など。大山のぶ代さんのドラえもんで育った世代(AI=ドラえもん世代)。趣味はダイエット。そして特技はリバウンド…

『エヴァンゲリオン新劇場版』
 庵野秀明

選:イシイジロウ(ゲームデザイナー/原作・脚本家)

エヴァは常に厄災と共にあった。TVシリーズ放映の1995年の阪神淡路大震災。世紀末に迷った僕らはエヴェの混沌に答えを求めた。そして2011年の3・11を受けての『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』。混沌から脱して喝采を浴びた『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』と『破』。しかし『Q』は再び僕らを答えなき混沌へ引き戻した。輪番停電の恐怖をヤシマ作戦に例えて誤魔化した僕らを笑う様に。そして同監督の『シン・ゴジラ』はポスト3・11の答えを提示した様に見えた。その先を描く完結編『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の上映間近の2020年春。再び世界は変わった。世界が変わるたびにエヴァに答えを求めた僕ら。今は「エヴァを待ちながら」考える。今日は来ないが明日は来る。そう信じて。

Jiro Ishii
一般企業で広告・宣伝担当を経てゲーム業界へ。チュンソフト(2000年-2009年)、レベルファイブ(2010年-2014年)において、おもにアドベンチャーゲームのシナリオ・監督・プロデュース、ディレクションを務めたのち、2014年に独立。2015年株式会社ストーリーテリング設立。ゲームに限らずアニメ作品等も幅広く手がける。代表作は『428 ~封鎖された渋谷で~』、『文豪とアルケミスト』、『新サクラ大戦』など。

『みどりの守り神』
 藤子・F・不二雄

小学館

選:ドミニク・チェン(情報学研究者/早稲田大学准教授 / HITE-Media)

ウィルスによって瞬時に壊滅した人間社会の描写、そして植物が動物を助けるために進化し、新たな共生関係が生まれたという設定は、今後の現実の状況に照らし合わせて読むことができる。

Dominique Chen
1981年生まれ。博士(学際情報学)。NPO法人クリエイティブ・コモンズ・ジャパン(現コモンスフィア)理事、株式会社ディヴィデュアル共同創業者を経て、2020年1月現在は早稲田大学文化構想学部准教授。一貫してテクノロジーと人間の関係性を研究している。著書に『フリーカルチャーをつくるためのガイドブック』(フィルムアート社)、『謎床』(晶文社、松岡正剛氏との共著)、監訳書に『ウェルビーイングの設計論』(ビー・エヌ・エヌ新社)など多数。

小学館

『SARU』
 五十嵐大介

選:田崎佑樹(KANDO代表 / HITE-Media)

世界中の古代文明に残されている猿神(斉天大聖、ハヌマーンなど)が、今考えると見えざる巨大な脅威として描かれるシーンがあり、その中にはあらゆる動植物が渾然一体となった超生命としての猿神が描かれる。そこには見えざる細菌や微生物も含まれた動物相(ファウナ)と植物相(フローラ)と微生物相(ミクロビオタ)からの人類への逆襲の様に思える。コロナ含む気候変動も、この様な得体の知れない集合体として襲いかかってきている事が想起され、作中では荒ぶる猿神を収めるのはテクノロジーでも武力でもなく、世界の古代民族たちが受け継いできた呪力持つ「歌」である事は、ナウシカでも語られていた人類が生み出したものは「歌(唄?)」以外にはろくなものはなかったというシーンも思い出させるし、現在僕らが直面している課題に対して、歴史学の検知が求められているのは、人類の叡智の見直しが見えざる荒神と対話する手段であるからだと思う。

Tazaki Yuki
クリエイション・リベラルアーツ×サイエンス・テクノロジー ×ファイナンス・ビジネスを三位一体にし、ディープテックの社会実装と人文科学を融合させた事業を開発する「Envision Design」を実践する。Envision Design実践例として、REAL TECH FUND投資先であるサイボーグベンチャー「MELTIN」においては20.2億調達実績を持つ(www.meltin.jp)、人工培養肉ベンチャー『インテグリカルチャー』(integriculture.jp)。その他にパーソナルモビリティ『WHILL』MaaSビジョンムービー(whill.jp/maas)、小橋工業ビジョンムービー等。アートプロジェクトは、彫刻家・名和晃平氏との共同プロジェクト『洸庭』、HYUNDAIコミッションワーク『UNITY of MOTION』、東京工業大学地球生命研究所リサーチワーク『Enceladus』、荒木飛呂彦原画展『AURA』等。www.kando.vision

講談社

『EDEN It’s an Endless World!』
 遠藤浩輝

選:桜井祐(TISSUE Inc. 共同設立者/編集者)

パンデミックから20年。崩壊するかに見えた世界は存続し人々は相変わらず争いに明け暮れていた。そんな中、変異したウイルスが感染者の肉体を記憶メディア化していることが判明。人間たちの情報を新たな宇宙に放つべく、絶望した者たちの魂をも取り込み出した。個を捨て宇宙の魂となるか、理不尽で残酷なこの世界にとどまるか――。究極の択一を前に、実在するかもしれない「大いなる意思」に対する自らの態度を想像することは決して無駄でないはずだ。

Yu Sakurai
1983年兵庫県生まれ。紙媒体や伝統工芸、アートプロジェクトなど幅広い領域において企画・ディレクション・キュレーションを行う。2008年大阪外国語大学大学院言語社会研究科(博士前期課程)国際言語社会専攻修了。出版社、株式会社東京ピストル取締役を経て、2017年にクリエイティブディレクションを中心とするTISSUE Inc. / 出版レーベルTISSUE PAPERSを設立。大阪芸術大学非常勤講師。

晶文社

『野中モモの「ZINE」小さなわたしのメディアを作る』

選:加島卓(社会学者)

人間には一人ひとり心地よい速度がある。せっかちな人もいれば、信じられないほどゆっくりな人もいる。手っ取り早くお金を儲ける人もいれば、いつまでもお金にならないことを続けられる人もいる。ZINEという「小さなわたしのメディアを作る」ことは、「自分のペース」を取り戻すことなのかもしれない。なんでもかんでも世界に発信しなくていい。小さなマーケットでも楽しくやっていける。そういう勇気を与えてくれるやさしい一冊である。

Takashi Kashima
東海大学教授。専門は社会学、メディア論、デザイン史、広告史。著書に『オリンピック・デザイン・マーケティング:エンブレム問題からオープンデザインへ』(河出書房新社、2017年)、『〈広告制作者〉の歴史社会学』(せりか書房、2014年)。twitter.com/oxyfunk

文春文庫

『がんと闘った科学者の記録』
 戸塚洋二・著/立花隆・編

選:庄司昌彦(武蔵大学社会学部教授/国際大学GLOCOM主幹研究員/HITE-Media)

ニュートリノの研究でノーベル賞受賞受賞が有力視されていた東京大学の戸塚洋二特別栄誉教授による、がんとの闘病記録。残された日々を、花や木などの自然や自己の内面とどう向き合って過ごしたかが、豊かな感性で描かれている。またそれとは対象的に、病気に対しては医師よりもデータを重んじ、症状や薬の効き方などを自らグラフで表現し、自分の頭で考えて「事実」と最期まで科学的に向き合いつづけていく姿勢に心を掴まれる。

Masahiko Shoji
専門分野は情報社会学、情報通信政策。近年はデータの社会的な活用や、行政のデジタル化、オープンガバメント、スマートシティなどについて調査研究に従事。HITE-Mediaでは研究代表者を務めている。

編集:高橋未玲、塚田有那

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