HITE-Media オンライン座談会② パンデミックとメンタルヘルス

プロジェクト

2020.06.29

新型コロナウイルス流行以降、パンデミックが与える影響。経済、公衆衛生、メディア、社会インフラなどさまざまな議論が続くなかで、わたしたちの「心」はどんな影響をうけているのでしょうか。HITE-Mediaでは、「パンデミックとメンタルヘルス」をテーマとした座談会を開催しました。

外出制限が続く中で、イギリスではDVに関する電話相談が65%増加し、フランスでも配偶者間の暴力が36%も増加したという報道がなされています。
これは外出制限が終わっても、コロナ禍の影響が続く「withコロナ」の時代において、無視できない問題となるでしょう。

今回のゲストには、児童精神科医であり、子どもの頃から尊厳が大切にされる環境を広げる取り組みを行う認定NPO法人PIECES代表の小澤いぶきさん、極地建築家として南極越冬隊や火星移住模擬実験などに参加し、「閉鎖環境のプロ」ともいえるNPO法人フィールドアシスタント代表の村上祐資さんをお招きしました。

座談会の様子は、グラレコと共に以下のYouTubeからご覧いただけます。

HITE-Media オンライン座談会② パンデミックとメンタルヘルス
映像編集:坂本麻人

参加メンバー

ゲスト:
小澤いぶき(児童精神科医/NPO法人PIECES代表)
村上祐資(極地建築家/NPO法人フィールドアシスタント代表)

HITE-Mediaメンバー:
髙瀨堅吉(自治医科大学医学部 教授)
ドミニク・チェン(早稲田大学 文化構想学部 准教授)

山内康裕(レインボーバード合同会社/マンガナイト 代表)
庄司昌彦(武蔵大学社会学部 教授)

モデレーター:
塚田有那(一般社団法人 Whole Universe 代表理事)

グラフィックレコーディング:
清水淳子(TokyoGraphicRec 代表)

災害・紛争下で発生するコレクティブ・トラウマ

小澤いぶき(児童精神科医)
紛争や災害など大きな事件が社会で起きたとき、共同体の中で同時に発生するコレクティブ・トラウマ(集団性トラウマ)と呼ばれるものがある。その際、有事発生時から情報を適切に伝えることでメンタルへの影響を考慮する「トラウマ・インフォームドケア」と呼ばれる方法論もある。

現在は誰もが当事者でありながら、当事者の存在が見えづらくなるという現象が起きているのではないか。そのとき、自身の中の共在感覚(違う生命やものとも時空を超えて共にある感覚、その想像範囲の広がり)がいわゆる「共同性」のオルタナティブにならないだろうか。

個人的には、いま顕在化している思考の背景にある集団の偏見や歴史、そこからの新たな物語の可能性を知りたい。

共同性の回復はどこにあるか

ドミニク・チェン(情報学研究者)
特にこどもや、大学生・院生のメンタルヘルスにおいて、「共同性の喪失」が起こっている。新しくコミュニティに入る人同士が親密な関係を結ぶ環境がないこと、また、既知の間柄同士でもZoom疲れのように、もどかしい思いが募るケースを見ているし自分でも体感している。「感情を受け止める人」の存在が希薄化しているのかもしれない。

では、どのように共同性を回復するか?
テレコミュニケーション研究においては、Social Presence、人類学では共在感覚(木村)、を手がかりに、遠隔でのコミュニケーションにおける会話の内容、関係性、そしてウェルビーイングにどう影響するかを研究している(最近論文を書き終え投稿準備中)。

庄司昌彦(社会情報学研究者)
感染症はウィルスが目に見えない災害なので、どうしてもメディアへの依存が強くなってしまう。マスメディアが、巨大な経済対策やオリンピックのようにポジティブな報道を流し、ソーシャルメディアでもそのような話題が増えれば多くの人は流行に乗ってあっさりと過去を忘れるような気もするが、受け身で流されていくだけでいいのか、それでも何かが残ってしまうのか。

恐怖に戦うのか、逃げるのか

村上祐資(極地建築家)
探検家とは、自らトラウマを得に向かっていく存在。極地生活においては、パニックをいかに起こさないかを常に考えている。宇宙のSF作品にはヒーロー登場物語が多いが、実はこのヒーロー像は厄介な代物。

トラウマを物語化していく回復過程で、「過去 → 未来」(過ぎた時間)へ落とし込んでいく方法と、「外/内」(空間の境界)に落とし込んでいく方法があると思う。いま外で起きている問題と、家の中で起きている問題を分けて考える

恐怖から生まれた不安を、勝つ(負ける)ことで満足感をえるタイプと、逃げ切ったことで満足感を得るタイプがいる。メディアに登場する言葉は「コロナに負けない」「打ち勝つ」など勝負感が強いが、情報を遮断して「逃げ切る」というメンタルの保ち方もあるのでは。

悩めない若者が増えている?

髙瀨堅吉(自治医科大学医学部 教授)
新型コロナウイルスは、個々が抱えるリアリティの断絶を浮き彫りにした。世代によって異なる新型コロナへの脅威=世代間のリアリティの断絶。
一方、学生相談の現場にいると、最近は「悩めない」若者が増えていることを感じている。アイデンティティの拡散によるものが、共同体のアイデンティティ喪失に拍車をかけている気がする。

*参考文献:「大学生の心理的特徴が、エリクソンの提唱した青年期の課題「自我同一性の獲得」に向けて悩み苦しむという葛藤のある状態から、時代の変化に伴って逸脱、抑うつ感へと移行し、徐々に「悩めない」状態へと変化していることが読み取れる」http://www.wako.ac.jp/_static/page/university/images/_2013-141-154.8fd746126e9253ade1612c1e71506649.pdf

 

 

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