AI、VR、民俗学から – 未来の「死」を考える作品セレクト

SF社会考察

2020.11.10

今後、私たちの「死」はどう変化していくのでしょうか。いまや故人のデータはネットワーク上に残り、「AI美空ひばり」のようにAIが過去の偉人を「復活」させたり、バーチャル空間内で死者と再会したりすることも可能な時代となりました。今後はお墓や葬儀のシステムも見直されていくかもしれません。そこでHITE-Mediaでは、「これまで人間は死とどう向き合い、私たちはどのように死を受け止めていくのか?」という問いを立てました。今回、様々な識者にそのヒントとなるような作品を紹介してもらいました。

『遠野物語』
 柳田國男

柳田國男『遠野物語』(新潮文庫刊)

選:畑中章宏(民俗学者・作家)
日本民俗学の古典的名著である本書には、「魂の行方」と名ざされ、分類された話が8篇収められている。死者の出現や臨死体験を描き、「幽霊」や「霊魂」、あるいは単に「死」と名づけてもよかったはずのこれらの民譚を、柳田はなぜ、「魂の行方」という“意志的”な言葉でまとめたのか。「死」や「魂」を実体として捉え、具体的かつ動的なものだと認識してきた“民俗感情”は、これからの死生観の参考にすべきだろう。

はたなか・あきひろ
〈感情の民俗学〉の視点により、民間信仰・災害伝承から最先端の風俗流まで幅広い研究対象に取り組む。おもな著書に『柳田国男と今和次郎』(平凡社新書)、『災害と妖怪』(亜紀書房)、『天災と日本人』(ちくま新書)、『蚕』(晶文社)、『関西弁で読む遠野物語』(エクスナレッジ)、『21世紀の民俗学』(KADOKAWA)、『死者の民主主義』(トランスビュー)ほかがある。最新刊は『五輪と万博』(春秋社)。

『あなたの人生の物語』
 テッド・チャン

テッド・チャン著 / 浅倉久志他訳『あなたの人生の物語』早川書房

選:ドミニク・チェン(情報学研究者)
未知の言語構造という設定を活かしてスペキュラティブな親子関係を描いた本作は、現実は決して経験しえないのに懐かしくも感じられる感情を呼び起こしてくれる。未来において子が自分に先立って死ぬことを知った上でなお、その子を産もうと決意する主人公の心情は、自分の子が生まれる前には理解できなかった。しかし、娘が生まれてから再読した時、わたしは彼女の判断に大いに共感したのである。このことを論理的に言語化するのは難しい。ひとりの親としては子に先立たれる恐怖があり、それは自らの死よりも重要である。それでも、この物語で描かれる、子どもが「未来に生きた記憶」は既に現実のものであり、それを否定することはできない。この時、忌避すべき未来の死は、限られた人生の祝福に取って代わられる。

ドミニク・チェン
1981年生まれ。博士(学際情報学)。特定非営利活動法人クリエイティブ・コモンズ・ジャパン理事。NTT InterCommunication Center[ICC]研究員, 株式会社ディヴィデュアル共同創業者を経て、現在は早稲田大学文化構想学部准教授。一貫してテクノロジーと人間の関係性を研究している。近著に『未来をつくる言葉―わかりあえなさをつなぐために』(新潮社)がある。その他の著書として、『謎床―思考が発酵する編集術』(晶文社)、『フリーカルチャーをつくるためのガイドブック―クリエイティブ・コモンズによる創造の循環』(フィルムアート社)など多数。監訳書に『ウェルビーイングの設計論―人がよりよく生きるための情報技術』(BNN新社)など。

『アップロード〜デジタルなあの世へようこそ』 Amazon オリジナルドラマ

『アップロード〜デジタルなあの世へようこそ』Amazon Prime Videoにて独占配信中

選:長谷川愛(アーティスト)
意識のデジタル化「脳アップロード」が可能になると私たちは死後の生活環境、言うなれば天国と地獄を設計し実装できる。このSFの意識のデジタル化はまだ遠いテクノロジーだが、VRという機器によって現在と橋渡しがなされる。更にこの話では資本主義と死後の生活が結びつけられる。昔から死後もお金が必要になるという死生観は存在していたけれども、それがテクノロジーと紐づけられ映像化された時の絶望は深い。

はせがわ・あい
テクノロジーと人の関係についての作品を制作している。IAMAS、RCA、MIT Media Lab卒。2017年から東京大学にて特任研究員。「(不)可能な子供/(im)possible baby」で文化庁メディア芸術祭アート部門優秀賞。森美術館、上海当代艺术馆、スウェーデン国立デザイン美術館、アルスエレクトロニカ等国内外で多数展示。著書『20XX年の革命家になるには──スペキュラティヴ・デザインの授業』など。

『Son of Memory 記憶の息子』
 安藤隼人

『Son of Memory 記憶の息子』動画は近日一般公開される

選:富永勇亮(Whatever)
2019ショートショートフィルムフェスティバル 2020に出展されていた映像作品。
息子を亡くして、その死を受け入れることが出来ない母親が、ある日、葬儀屋のサービスで故人を49日間だけヒューマノイドとして復元できるサービスを知る。母親はそのサービスを使うがどうか苦悩するが…。
先日も、米国史上最悪の高校銃乱射事件で17歳にして命を落とした息子を、大統領選向けの動画のために人工知能(AI)で復活させた映像が世界中で物議を醸した。このような問題は未来に向けた議論ではなく、今まさに語り合うべき論点である。

https://www.afpbb.com/articles/-/3312653

この作品では、テクニカルな面にスポットを当てるのではなく、両親の葛藤を描いている点が興味深い。ぜひ、感情移入して、ご覧頂きたい。

https://www.shortshorts.org/2020/prg/ja/1027

とみなが・ゆうすけ
2000年AID-DCC設立に参画、COOとして在籍、2014年dot by dotを設立。2018年からPARTY New Yorkのプロデューサーを兼務、2019年1月にグループ化、Whateverを設立、代表に就任。東北新社と共同出資しWTFCを設立、CSOに就任。広告、インスタレーション、MV、IoT、ファッション、TV など様々なプロデュース活動を行い、カンヌライオンズ、SXSW、文化庁メディア芸術祭、The Webby Awardsなどを受賞。COTODAMA、“YUMMY SAKE”、BASSDRUMへ出資、社外取締役を兼務、コーワーキングスペースを運営するなど、クリエーター同士のゆるやかなネットワークをつくる事がライフワーク。Femtechグッズなど「未来の日用品」をコンセプトにしたセレクトショップNew Stand Tokyoを乃木坂にオープンした。

『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った』宮川サトシ

宮川サトシ『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った』BUNCH COMICS刊

選:市原えつこ(アーティスト)
「大事な人を失った人がどのような感情を持ち、どのような弔いや喪のプロセスを辿るのか」が非常にリアルに表現された、グリーフケアの機能を持つサービスや作品を設計する上で非常に参考になる漫画。故人の不在を愛でて自分のものにする「死の侘び寂び」こそが大事なのだ、とおっしゃっていた宮川サトシさんの言葉を今も大事にし続けています。配信中にはご紹介できませんでしたが、「機械仕掛けの愛」第一巻「リックの思い出」も未来の死を考える上で重要作品。

いちはら・えつこ
1988年、愛知県生まれ。メディアアーティスト、妄想インベンター。早稲田大学文化構想学部表象メディア論系卒業。日本的な文化・習慣・信仰を独自の観点で読み解き、テクノロジーを用いて新しい切り口を示す作品を制作する。家庭用ロボットに死者の痕跡を宿らせ49日間共生できる《デジタルシャーマン・プロジェクト》が第20回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門優秀賞、アルス・エレクトロニカ賞で栄誉賞を受賞。

『とむらい師たち』
 野坂昭如

野坂昭如『とむらい師たち』講談社文庫

選:宮本道人(科学文化作家)
デスマスク師、霊柩車の運転手、死顔美容の医者、区役所の死亡管理係がタッグを組んで葬儀社を起業、大阪万博に対抗しトンデモな葬儀博覧会を開催するという奇抜な小説(映画版もオススメ)。葬儀のタブー化に逆らって死を見世物にするが、結局は死を形骸化させてしまう主人公たちの姿がブラックユーモアたっぷりに描かれる。50年以上前の作品だが、描かれている社会課題は今も古びていない。当時なかった様々な葬儀スタイルが登場した現在、大阪万博にあわせて漫画化など何かしらの形でリメイクして再評価すべき作品であろう。

みやもと・どうじん
1989年生まれ。科学文化作家、筑波大学システム情報系研究員、株式会社ゼロアイデア代表取締役。フィクションと科学技術の新しい関係を築くべく、研究・評論・創作。編著『プレイヤーはどこへ行くのか』、原案漫画連載「教養知識としてのAI」(人工知能学会誌)、対談連載「VRメディア評論」(日本バーチャルリアリティ学会誌)、共同企画連載「SFの射程距離」(SFマガジン)など。東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。博士(理学)。

『俺の屍を越えていけ』(SIE)
 桝田省治

©2014 Sony Interactive Entertainment Inc.
©2014 Sony Interactive Entertainment Inc.

選:大澤博隆
短命の呪いをかけられた人間が、神と子孫を残しながら一族を作っていき、その一族が呪いの元凶を打ち倒すビデオゲーム作品です。通常の物語では、特定のキャラクターを読み手の感情移入の対象とする構造が多いですが、この作品はキャラクターを成長させる古典的なJRPGの形式を取りつつ、ゲーム内で極めて早い世代交代を繰り返すことで、特定の「一族」に対する感情移入を促す構造を持ちます。どんなに思い入れのある個人がいても、その人物は健康を害し、やがて老いて死にます。しかし、その思いは子孫に遺言として受け継がれ、プレイヤーの努力は家系図となって残っていきます。ビデオゲームというプラットフォームの特性を上手く使い、私達が無意識に持つ血縁への期待、命を受け継いでいく価値を、遊び手に考えさせる意欲作だと思います。

おおさわ・ひろたか
1982年生まれ。筑波大学システム情報系助教。ヒューマンエージェントインタラクション研究者。人とロボットやキャラクターとの相互作用の研究を広く行う。人工知能とSFの相互作用を研究するAIxSFプロジェクトリーダー。共著として「人狼知能:だます・見破る・説得する人工知能」「人とロボットの〈間〉をデザインする」「AIと人類は共存できるか」「信頼を考える リヴァイアサンから人工知能まで」など。映画『AI崩壊』マンガトリガー『アイとアイザワ』監修。人工知能学会、日本認知科学会等会員、日本SF作家クラブ理事。博士(工学)。

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