コラム③森尾貴広
アジア人と
アフリカ人の「混血」
SF的モチーフとしての
多様性

HITE-Mediaが共催した「マンガミライハッカソン」の大賞受賞作『Her Tastes』。
ゲノム研究をはじめさまざまな研究歴を持つ森尾貴広は、アフリカのマンガ・アニメビジネスと現地の「オタク」を研究するという異色の研究者。『Her Tastes』は森尾の参加によって、父親が日本人、母親がアフリカ系という異例のヒロインが誕生することとなった。人種的多様性から見る、近未来の社会像とは?

 本作の主人公のひとりである「あーちゃん」は父親が日本人、母親がアフリカ系という設定である。これは作品のアイディアを練り上げる過程で、近未来の社会構成が話題になり、ひとつの可能性として提案したものである。

 日本が少子高齢化社会と言われて久しいが、現在最大級の人口を誇る中国やインドも今世紀後半には少子高齢化社会に突入し、代わってアフリ力諸国の人口が上回り、世界の生産年齢人口(15~64歳)の約3分の1強を占めることが予想されている。生産年齢人口の増加は人口ボーナスとして日本でも1950~60年代の高度経済成長の下支えになっていた。アフリカ大陸でもまさに人口ボーナスによる急激な経済発展が進み、大都市圈では近未来SFを彷彿とさせるような建物が立ち並んでいる。 

 その一方で、爆発する人口をアフリカ大陸で「食わせていけるか」、すなわち食糧と雇用そして教育の問題が持続的発展の課題となっている。

 アフリカ出身者の欧州・米州をはじめとする海外への移住は奴隸貿易や難民など過去の暗い歴史を抜きに語ることが出来ないが、近年留学やビジネスを契機とした海外進出・移住も多く見られている。中にはディアスポラとして母国との繫がりを持ち続ける者もおり、仕送りが母国のGDPに貢献し、カーポヴェルデのように自国の電子政府化の技術的側面を支えている例もある。

 アジアにおいてはタンザニア人の香港、中国本土への商品買い付けの往来に端を発するタンザニア人街の形成や中国人との共存の実態が最近の研究により明らかになりつつあり※1、学問的にも物語のネタ的にも注目すべきものがある。

 日本は外国人との共存、家庭を持つことについての社会・文化的受容がまだ遅れており、いまだに「国際結婚」や「ハーフ」など「特別なケース」としての概念が残っている。2019年6月末時点のアフリカ大陸出身者の日本の在留総数は二万一千人余りで、総在留外国人のわずか0.6%であるが、今後人口の増加に伴ってアフリカの特に若い世代が多く来日し、日常的に日本人と共に働き生活することも珍しくなくなると筆者は期待を込めて予想している。

 アフリカでは携帯電話によるキャッシュレス決済サービスが早くも2007年に始まる※2など実インフラ不足を補う―CTイノベーションが多く起こっており、日本の若いアントレプレナー、クリエイター、ビジネスマンがアフリカあるいは世界のどこかでアフリカの若者と協働する機会も増えると思われる。中にはビジネスパートナーからプライベー卜なパートナーに発展し、第二、第三世代に広がることも少なくはないだろう。

 こうした近未来社会構造の予測(妄想)は、日本人とアフリカ出身者によるビジネスストーリー、ロマンス(アフリカ諸国では南アフリカなど少数の国を除いて同性愛は違法であり、時として死刑の対象となるが何十年か先には状況が一変するかもしれない※3)、結婚を巡るコメディ(日本人文化人類学者のアフリカのアイドルとの結婚譚が参考になる※4)、ホームドラマ、第二、第三世代のアイデンティティの葛藤の物語など、様々な物語の可能性へと果てしなく広がるのである。 

<参考文献>
1. 栗田和明『アジアで出会ったアフリカ人 タンザニア人交易人の移動とコミュニティ』 昭和堂 (2011)
2. Safaricom:Celebrating 10 Years of Changing Lives. (https://www.safaricom.co.ke/mpesa_timeline/)
3. The International Lesbian, Gay, Bisexual, Trans and Intersex Association: Sexual Orientation Laws in the World – 2019 
4. 鈴木裕之『恋する文化人類学者 結婚を通して異文化を理解する』世界思想社 (2015)

プロフィール
森尾貴広|Takahiro Morio
1965年、米子市生まれ。筑波大学国際室教授。土壌微生物のゲノム研究を振り出しに研究遍歴を重ね、現在はアフリカのオタクがどう現地のマンガ・アニメビジネスに関わっているかを研究中。

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