コラム①宮本道人 未来を切り拓く共作ハッカソン型SFマンガ創作のプロセスから考える

プロジェクト

2020.06.02

HITE-Mediaが共催した「マンガミライハッカソン」の大賞受賞作『Her Tastes』。研究者、マンガ家、編集者がハッカソンを通して生まれた本作品の裏側とは? 科学文化作家という異色の肩書きを持つ、原作者・宮本道人によるコラムをお届けします。

 僕は物語と科学が好きだ。でも、人間を書くのは得意ではない。だからこれまで大学で研究をしながら、サイエンスライティングや批評を中心に執筆活動をしてきた。マンガや舞台や小説の科学設定に対してアドバイスする仕事をしたこともある。僕は物語と科学が好きだ。でも、人間を書くのは得意ではない。だからこれまで大学で研究をしながら、サイエンスライティングや批評を中心に執筆活動をしてきた。マンガや舞台や小説の科学設定に対してアドバイスする仕事をしたこともある。

 そんな僕がなぜ今回、ラブコメという「人間関係」が重要なジャンルに挑戦したのか。それは「チームで制作できたから」という一言に尽きる。

 共作は、メンバーの誰もが思いもよらない方向に、物語の可能性を拡げてくれる。でも、読者の皆さまには、共作がどのように行われるか、そこにどのようなコツが必要か、あまり想像がつかないかと思う。

 共作について詳しく書かれた文章は、実は世の中にあまり多くは存在していない。だからこのエッセイでは、本作が作られた過程を追いながら、共作というものを説明していこうと思う。

 まずマンガミライハッカソンで行われたチームメイキングについて簡単に述べよう。僕ははじめ二人組ユニット分けにより、編集者の矢代さんと組むことになった。二人で何を描きたいかテーマを練っている中で、未来の「飯テロ」という案が生まれ、盛り上がった。次に他のユニット同士アイデアを見せ合うフェイズがあったのだが、ここで矢代さんと僕は、漫画家の竹ノ内さんのユニットが「未来の食の流通」をテーマに挙げているのを見て、ここと組みたいと目星をつけた。また、アフリカ研究の森尾さん、VR研究の安藤さんのユニットにも目星をつけていた。

 迎えたチームメイキング当日。全員顔も名前も分からなかったが、無事に二組のユニットを見つけ、猛アタックの末に組むことができた。チームができてすぐ、僕たちは昼ご飯を一緒に食べに行った。そこで森尾さんから、アフリカのオタクが日本のアニメを見た時、料理がどんなものか分からないと話していたというエピソードが共有された。そこで僕は、遠隔で味覚を共有できる装置のアイデアを思いつく。

 この時点で僕は世界観や設定から物語を作りたくなっていたのだが、矢代さんと竹ノ内さんの方針で、人物の性格や感情の動きから物語を考えていくことになった。僕の過去の仕事ではあまりないスタイルだったが、結果的にこれが功を奏した。

 竹ノ内さんからマザコンの男の子というトピックが語られたのが、この時だ。矢代さんも母親との関係を語りだし、僕がそこに先ほどの遠隔味覚共有のアイデアを組み合わせ、息子と味覚を共有する母親というキャラクターが生まれた。

 早速プロットをみんなでざっくり練り、そのまま勢いで僕は原作を書き始めた。メンバー+他のチームの方々で一緒にご飯に行ったのだが、その飲み屋で僕はラフな原作第一稿を完成させ、メンバー全員に読んでもらってフィードバックをもらうところまで一気に進めた(全て一日の出来事)。

 さらにその日の夜中に書き換えた第二稿を出し、安藤さんから味覚VRに関するフィードバックを頂いたりして四日後に第三稿を出し、あとは竹ノ内さんと矢代さんにお任せすることになった。竹ノ内さんは矢代さんと綿密な打ち合わせを行い、ネームを何度も書き換えていた。

 そして発表日が来て、僕らは優勝し、こうして今に至ったのだった。

 振り返ってみると、僕にはチームワークにおいて意識していた点が沢山あった。ここでは三点を挙げよう。

1. 雑談の中からアイデアを拾って組み合わせ、そこでしか生まれ得ない物語を、気負わず全員で作るようにする。
2. メンバーの強みは活かすが、各々経験がない事にも挑戦する。
3. 原作は素早く書きメンバーの意見を受け何度も直し、漫画家さんと編集者さんがじっくりネームを切る時間を確保する。

 これから様々な共作の試みが増え、このような共作のプロセスやコツが共有されていくと、様々な応用も可能になる。というのも近年、企業がSF作家と組んで未来を考えるなど、「共作」には社会的ニーズも出てきたからだ。コミュニケーションツールとして、イノベーション創発ツールとして、共作には可能性がある。

 何より、共作は楽しい。僕たちはLINEグループで発表日までに4万字弱、今までに20万字弱はチャットしている。対面会議やウェブ会議、別に共有している脚本や漫画や画像もあり、やり取りは膨大である。

 この冊子を読んで、共作をやってみたいと思ってくれた方がいたら、それはとても嬉しいことだ。これから「共作」が一個の文化になっていく上で、本作の在り方が少しでも参考になれば幸いである。

プロフィール
宮本道人|Dohjin Miyamoto
科学文化作家。編著『プレイヤーはどこへ行くのか』、人工知能学会誌での漫画連載「教養知識としてのAI」原案担当など。筑波大学システム情報系研究員、株式会社ゼロアイデア代表取締役。博士(理学)。1989年生。

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